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人の寿命はカネ次第…⁉ニッポンの「健康格差」深刻な実態

November 15, 2017
約 9 分

低所得者の死亡率は、高所得者の3倍高かった…!

命に関わる衝撃の「格差」について次々と明かすのが、15日に発売される『健康格差  あなたの寿命は社会が決める』だ。

昨年9月に同タイトルの番組がNHKで放送され、放送後にはツイッター上で「♯健康格差」が一万個以上も呟かれるなど、話題に。同番組の取材班がさらに一年の歳月を費やして、格差と健康の問題を浮き彫りにした本書の一部をここに特別公開。

あなたの寿命、ちゃんと守られていますか?

自己管理だけで対処はできない

健康長寿社会を目指し、全国の大学・国立研究所などの研究者が分析を進めている日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study, JAGES)プロジェクトが、65歳以上で要介護認定を受けていない人2万8162人を4年間にわたって追跡調査したところ、その間に死亡した男性高齢者は、高所得の人が11・2%なのに対して、低所得の人はその3倍の34・6%に及んでいるという衝撃的な調査を2008年に発表した。

所得で人の死が左右されるだけではない。住んでいる地域や雇用形態、家族構成の違いで病気になったり、寿命が短くなったりしてしまうという問題が、最近、日本社会で深刻化しつつあることがわかってきた。

たとえば、2014年に東京都が発表した足立区と杉並区の65歳健康寿命(65歳の人が介護を必要とせず、健康で日常生活を支障なく送ることができる平均寿命)を見てみると、杉並区が男性で83・19歳、女性が86・06歳なのに対し、足立区は男性81・44歳、女性84・42歳と、2歳近い差があることがわかった。

さらに全国の健康寿命になると、1位は男女ともに山梨県だが、最下位は男性では徳島県、女性では大阪府となり、その差は3歳以上にもなっている。

また、全日本民主医療機関連合会(民医連)の2014年の調査によると、雇用形態の違いが疾病にも影響することがわかっている。たとえば、非正規雇用の人は正社員よりも、糖尿病の合併症である糖尿病網膜症を悪化させる割合が1・5倍高いというデータがあるのだ。

こうした社会問題は「健康格差」と呼ばれ、いま私たちの身の回りに確実に忍び寄っている。

「健康格差」は、健康に対する自己管理能力の低さが原因ではなく、生まれ育った家庭環境や地域、就いた職業や所得などが原因で生じた病気のリスクや寿命など、私たち個人の健康状態に気づかぬうちに格差が生まれてしまうことを指す。

背景にあるのは、「失われた20年」に代表される日本社会の構造的な変化だ。大きな要因としてあげられるのは、非正規雇用者の増大などの労働環境の激変と、それにともなって生じる収入格差の拡大である。

正規雇用者に比べ、非正規雇用は不安定で賃金も著しく低い。たとえば、毎月勤労統計調査によると、一般労働者の給与が34・3万円であるのに対してパートタイム労働者は9・5万円と3分の1にも満たない。賞与もなければ、賃金のベースアップもない。

こうした雇用格差によってジリジリと生じてくる所得格差が、日々の生活レベルや子どもの教育環境などの格差に連鎖し、健康も脅かしつつある。

地域によっても「健康格差」が…

「健康格差」は、何も特定の人に限った問題ではない。現役、子ども、高齢者、すべての世代で深刻化している。まず現役世代では、非正規雇用者の間で、糖尿病の問題が深刻化している。正社員との比較では、糖尿病合併症リスクは5割増にもなるという調査結果もある。

また、子どもたちの間では、貧困家庭を中心に肥満が広がっている。健康を維持するためにはバランスのとれた食生活を送ることが必要だが、家計に余裕のない家庭では、単価の高い野菜や果物などを購入できずに、比較的安い炭水化物を過多に摂取することが多い。そのため、給食がなくなる夏休みなどに食生活が乱れて、休み中に肥満化する子どもが増えているという。

そして高齢者でも、「下流老人」と言われる低所得の人ほど、お金がないため医療機関の受診を控えており、その結果は健康状態に如実に表れていることがわかっている。

「健康格差」研究の第一人者である国立長寿医療研究センター部長で千葉大学の近藤克則教授の研究によれば、具合が悪いのに医療機関の受診を控えたことがあると答えた高齢者は、年収300万円以上の人が9・3%なのに対して、年収150万円未満の人は13・3%。その理由として、年収300万円以上の人は「待ち時間」をあげた人が最も多かったが、年収150万円未満の人は「費用」をあげる人が最も多くなっていた。

さらに、住む地域によっても「健康格差」があることがわかってきた。それが「がん」へのかかりやすさだ。

国立がん研究センターが都道府県ごとに、がんと診断された人口10万人あたりの患者数(罹患率)をまとめた調査によると、胃がんは男女ともに秋田県が最も高く、肺がんは男性が和歌山県、女性は石川県がワースト1位、乳がんは東京都が突出していることがわかった。一部のがんは、地域によって異なる生活習慣が、がんへのかかりやすさを左右していると考えられている。

バランスがとれた食生活と適度の休息さえとれていれば健康であったはずの人が、ここまでに列挙した理由が原因で健康を損ない短命に終わるとしたら、大きな問題だ。

バブル崩壊後の社会構造の変化が、ついに国民の健康にまで影響を及ぼしてきたという意味で、「健康格差」は日本社会にとって看過することができない深刻な問題になってきた。

放置するほど損

「健康格差」は、人の命の格差に直結していく取り返しのつかない社会問題だ。日本だけではなく、世界的な規模で起きていることから、WHO(世界保健機関)も警鐘を鳴らしている。WHOは「健康格差」を生み出す要因として、所得、地域、雇用形態、家族構成の4つが背景にあると指摘し、「健康格差」を解消するよう各国に対策を求めている。

こうした中、日本の「健康格差」問題に対し、世界を代表する公衆衛生の研究者も「このままにしておくと、日本の長寿大国は危ない」と警告している。そのひとりが、2015年から2016年まで世界医師会会長を務めたマイケル・マーモット氏だ。

マーモット氏はロンドン大学教授で、2000年に疫学と「健康格差」の研究でナイト(knight)の称号を得ている。マーモット氏は、日本の貧困率がOECD(経済協力開発機構)先進35ヵ国中7番目に高いことを指摘し、世界に誇る国民皆保険制度が確立されている日本でも健康格差が拡大していると強く懸念している。

国も当然、危機感を抱いている。平成26年版厚生労働白書に、「健康日本21」(第2次)の基本的な方向として「健康格差の縮小」を取り組むべき筆頭項目に挙げた。国は「健康格差」を解消できれば、10年間で5兆円の社会保障費を抑制できるとして、対策に乗り出している。

そこで、私たちNHKスペシャル「私たちのこれから」取材班では、「健康格差」の実態と問題の共有、そして、主要な課題点を理解した上で、処方箋となりうる打開策を探るため各方面に取材を行い、今後検討すべき政策提言にまで踏み込んだ。

2015年に放送を開始したNHKスペシャルの大型シリーズ「私たちのこれから」は、人口減少社会に突入した日本社会に焦点をあて、私たちに何が起きるのか、それをどう乗り切っていけばよいのかについて、官僚・専門家・視聴者の皆さんとともに考える討論形式で番組を制作してきた。

およそ2年半に及んだ番組で取り上げてきたテーマは、年金・雇用・介護・少子化・不寛容社会・長時間労働・認知症・子どもたちの未来など多岐にわたったが、この「健康格差」は、最も視聴者の反響が大きいテーマだった。それは「健康格差」が、医療・福祉・雇用・労働・教育・子育てなど、日本が抱える様々な問題の根本に結びつくからではないだろうか。

考えてみれば、健康は人が生きる上での基盤であるから当然とも思えるのだが、逆に言えば、その健康が脅かされるということは、まさに日本社会を下支えする基盤が揺らいでいる証であり、恐るべき問題が私たち一人一人の身にせまっていることでもある。

また同時に「健康格差」問題の解決には、乗り越えなければならない大きな壁があることもわかってきた。それは「健康は自己管理するもの」「健康は自己責任で解決すべき」という根強い風潮だ。この流れを変えるために、従来とは異なるアプローチで打開策に取り組む海外の事例や国内の自治体の取り組みも取材した。

「健康格差」は、一見「自らの健康管理を怠ったゆえの自業自得」と捉えられることが少なくない。しかし、これは一部の人たちが不利益を被るという単純な問題ではない。

「健康格差」を放置すれば、医療費や介護費の増大を招くだけでなく、破綻寸前にあると揶揄される日本の国家財政をさらに圧迫する。その結果、社会保障制度の切り下げや、保険料の値上げや増税という形で、国民全員が負担を強いられることになる。

いわゆる「自己責任論」で切り捨てても、結局は社会全体の問題として「しっぺ返し」のような形で、国民一人一人にのしかかってくる問題なのだ。

また、誰もが、生涯ずっと健康でいられるわけではない。健康を著しく損なえば、必然的に仕事を辞めざるを得ないこともある。職を失い、経済的に困窮したときは、生活保護が必要になる。事実、高齢者の貧困世帯の増加にともない、生活保護の受給者は、年々増加の一途を辿っている。生活保護を開始する理由の多くは「疾病」である。

今後、働けなくなった高齢者にくわえて、もし健康を損なった現役世代がこれに加わったらどうなるか。専門家の中には「20年後、生活保護率が急上昇し深刻な社会問題として火を噴く」と危惧する人もいる。

健康は、私たち一人一人だけでなく、日本の未来を左右しかねない重大な問題だ。「人口減少」という局面において、世界に例を見ない急速な「超高齢化」と、「超少子化」と呼ばれるほどに深刻な少子化問題、そして2015年から2040年までの25年間で1750万人も減ると推計される生産年齢人口、つまり「労働人口の減少」という日本の未来をめぐる4つの問題に直面する中で、国民の健康が脅かされるという事態は、人間が最低限度の生活ができる社会の「底」がついに抜けるといっても過言ではないほどの問題である。

本書を通じて、「健康格差」が私たち個人だけではなく、私たちが生きる社会にとって大きな問題であることを感じていただき、どうすればこの問題を解決できるのかを一緒に探求していただけたら幸いである。

 

引用:現代ビジネス

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About The Author

The Healthy Company編集長細波恭輔
このライターへの問い合わせ・仕事の依頼はsaiha@kankyocoms.co.jpまで

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